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お金と恋と、
自由のはなし。

— 会員限定読み物 —

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コードはノウハウ図書館の記事(RIOの投稿)に記載されています。

※ 本作品はオリジナル創作フィクションです。
実在のコミュニティ・サービス・人物とは一切関係ありません。
作中の固有名詞・ニックネーム・設定はすべてフィクションです。
無断転載・再配布はご遠慮ください。
Original Story — 全7話完結

お金と恋と、
自由のはなし。

——経済的自由を夢みる、ふたりの話。

※ オリジナル創作 / フィクション
STEP 0 ── 大原則
EPISODE 01

自由の土台

「お金持ちになりたいわけじゃない。
ただ、自由になりたいだけだ。」

春の終わりの、午後二時。

あかり(本名は知らない。でも、そう呼ばれている)は、コワーキングスペースの窓際でノートパソコンを開きながら、じっとスプレッドシートを見つめていた。

画面には、毎月の収支と資産推移がびっしり並んでいる。今月の貯蓄率、来月のNISA積立額、三年後の試算——。数字を眺めるたびに、じわりと焦りが滲んでくる。

三十五歳までに、経済的自由を手に入れる。

それがあかりの目標だった。もう何年も、そこに向かって走ってきた。でも今日は、なぜか、その数字の向こうに何があるのか、急にわからなくなっていた。

自由になったら、何をするんだっけ。

そのとき、隣の席に誰かが座った。

気配でわかった。椅子を引く音。ノートパソコンを開く音。コーヒーカップを置く、静かなコトン、という音。それだけなのに、あかりは顔を上げてしまった。

男だった。

三十代前半くらいだろうか。黒縁のメガネ。白いシャツの袖が几帳面にふたつ折りにされていて、でもその几帳面さは本人にとってたぶん無意識だ。そういう感じがした。ノートパソコンを開くと、一切迷わずコードを打ち始めた。

あかりはすぐに目を戻した。

でも、ひとつだけ気になるものを見てしまった。ノートパソコンのサイドに貼られた、小さな🦁のシール。

——あ、同じだ。

あかりの口元が、知らずゆるんだ。

◇ ◇ ◇

声をかけたのは、それから三十分後のことだった。

きっかけは、男のスプレッドシートの画面がちらりと見えたことだ。列の名前に、見覚えのある言葉が並んでいた。「繰上返済額」「利息軽減効果」「完済月」。

気づいたら、口を開いていた。

「……借金返済のシミュレーターですか」

男が顔を上げる。驚いた様子はなかった。ただ静かに、あかりを見た。

「作ってます。知り合いに頼まれて」

「お金もらって?」

「いや、タダで」

あかりは少し黙った。

「……優しいんですね」

「そういうわけじゃないです。ただ——」

男は少し考えてから、続けた。

「借金のことって、正直に話せる場所が少ないじゃないですか。シミュレーターがあれば、自分で数字を見て、自分で考えられる。誰かを頼らなくても」

あかりはその言葉を、しばらく頭のなかで転がした。

「お金の勉強、してるんですか」

「少し。あなたも?」

「してます。あかりって言います、ニックネームで」

「RIOです。同じく」

自然に名乗り合った。本名かどうかなんて、誰も聞かない。この場所では、それが普通だった。同じ方向を向いている、ただそれだけで十分だから。

◇ ◇ ◇

しばらく並んで作業していると、RIOが不意に言った。

「FIREを目指してるんですか」

あかりは顔を上げた。

「……なんでわかるんですか」

「さっき、取り崩しシミュレーションの列が見えたので」

見られていた。でも、嫌な感じはしなかった。

「してます。三十五歳までに」

「なんで三十五歳なんですか」

あかりは少し考えた。こんな質問、されたことがなかった。みんな「いつまでに」は聞いても、「なんで」は聞かない。

「……正直、最初は数字のためでした。目標があったほうが動けるから」

「最初は、ということは、今は違う?」

あかりは少し黙った。今日、スプレッドシートを眺めながら感じた、あの空白のことを思い出した。

「今日、急にわからなくなって。自由になったら何をするのか、って」

言ってから、初対面の人にこんなことを話している自分に気づいた。でも、RIOは笑わなかった。ただ、少し遠くを見るような目をして、

「僕は」と言った。「お金持ちになりたいわけじゃないんです」

あかりは黙って続きを待った。

「ただ、自由になりたいだけで。——でも一個気づいたことがあって」

RIOはそこで一度、コーヒーカップに手を伸ばした。飲まずに、また置いた。

「自分だけ自由になっても、あんまり意味ないんですよね」

「……どういうことですか」

「好きな人が自由じゃなかったら、一緒に好きなことができないじゃないですか。スケジュールも、お金も、気持ちも、合わなくて。だから——自分の周りの人から、自由にしていきたくて」

💡 STEP 0 ── お金の大原則
経済的自由とは「資産所得が生活費を上回る状態」のこと。でも、お金はあくまで手段だ。自由になった先に、何があるか。誰と、何をするか。それを考えてはじめて、お金の勉強は本当の意味を持つ。

あかりは、その言葉をうまく受け取れなかった。

受け取れなかったというより、受け取りすぎてしまって、どこに置いたらいいかわからなかった。

ずっとひとりで走ってきた。ひとりで数字を積み上げて、ひとりで自由を目指してきた。それが当たり前だと思っていた。でもRIOの言葉は、その当たり前に、静かにひびを入れた。

自分だけが自由になっても、あんまり意味ない。
——その「好きな人」って、誰のことだろう。

聞けなかった。

RIOはもうコードに戻っていて、あかりも画面に目を落とした。さっきまで焦りしかなかったスプレッドシートが、なぜか少しだけ、違って見えた。

◇ ◇ ◇

帰り際、コミュニティのチャットを開いた。もくもく作業部屋に進捗を書こうとして、ふと気づいた。

RIOが、同じチャンネルに投稿していた。

RIO|#もくもく作業部屋
借金返済シミュレーター、ほぼ完成。
今日、久しぶりにお金の話で盛り上がれた気がする。
誰かの一歩になりますように 🦁

あかりはスマホを胸に押し当てた。

「久しぶりに、お金の話で盛り上がれた」。

それが自分のことかどうかは、確かめようがない。でも、そうだったらいいと思った。そうだったらいい、とこんなに強く思ったのは、お金の話でははじめてだった。

また、来よう。
——お金の勉強のためなのか、それとも別の何かのためなのか、
あかりにはまだ、わからなかった。
── 第一話 了 ──
NEXT ── STEP 1「貯める」
EPISODE 02

固定費と、
きみの正直

「借金なんてすんじゃねえ、って話、
もっと早く知りたかった」

——六大固定費、生活防衛資金、
そして、RIOが怒らない理由。